月光る夜に
大怪盗と姫
サイオニアの第二王女である私は、いつも過ごしている庭で夜を満喫していた。
この庭は巨大なベランダを改造したもので、私の寝室と繋がっている。
「なんだか今夜は騒がしゅうございますね」
ふと、私の専属侍女アンナが呟いた。
確かに今夜はなんだか騒がしいわね……。
「ほんとね……。何かあったのかしら」
そのときだった。
ザッ。
庭の草花が揺れる。
あ、と思ったときには、目の前に一人の男が立っていた。
驚きと恐怖で体が固まる。
この時間はいつもアンナしか連れないから、周りに護衛はいない。
我に返って大声を出そうと思ったけれど、目に止まったものに言葉を奪われた。
すごい血……!
「怪我が……!」
男は左腕から血を流していた。