月光る夜に
そうは言っても、アンナの不安げな表情は変わらない。
「あの方はきっと、今よく話題になっている怪盗であられますわ。最近城下町でも噂の中心になっています」
怪盗……?
「そんな噂があるのね……。では今夜はこの城に盗みに入ろうとなされたのかしら」
ガクッとアンナが肩を落とした。
「私はリーチェ様のことを心配しているのです!あなたに何かあったら……」
「……ごめんなさい」
確かに見ず知らずの男に、しかも城に侵入したような男に、また来てほしいって言うのはおかしいとわかっている。
でもね、アンナ。
ルシアン様は大丈夫って……
またあの方に会いたいって……
このいっときの間の出会いで、何故か強く心が訴えてくるの。