月光る夜に
近くに追っ手がいないことを確認して、怪我した左手を庇いながら一気にベランダまでジャンプした。
ザッ。
着地したときの風で草花が揺れる。
パッと体勢を立て直して顔を上げると……
くそっ、人がいたか!
そこには驚いて声も出ないらしい女が二人いた。
男は居ないようだし、叫ばれる前に逃げないと……
「……っ」
ぼそりと一人の女が何か呟いた気がした。
特に気にも止めずベランダから飛び降りようとしたとき、いきなり女が右手を掴んできた。
突然過ぎる行動に、不本意だが固まってしまう。
「こちらへ」
衛兵のところに連れていく気か……?
「ここにいては見つかってしまいます」
まさかこの女、俺をかくまおうとしているのか?
いや、やはり騙して捕まえるのか……