となりの女の子
家に着く頃、涙は乾いていたが、走った分、どっと汗が噴き出していた。


玄関の前に立ち、とりあえず目を擦ってみた両手を次に頬へ当てると、

“パンパン!”

軽く叩いて気合いを入れる。


「よっしゃ!」


そして扉を開けた。


「ただいまぁ。」

「あ!おかえり〜♪」


奥から明るく駆け寄る怜子が何を言うか寛太には予想がつく。


「疲れたぁ?暑かったでしょ?!うわぁ凄い汗〜!シャワー浴びちゃいなさい。あ、お風呂も沸いてるわよ。」

「あ、うん。」


それは、幼い頃から勝負事に負けて帰ってくると、まずシャワーを浴びて涙を隠していた寛太に掛ける怜子の口癖だ。


熱めのシャワーを浴びながら、

“気ぃ使わせてんなぁ、俺。”

今日、これから寝るまで、どんな態度をとるべきか考える寛太は、怜子が何も言わずに応援に来てくれていたコトにも勿論気が付いていた。



「腹へった〜。」

「こ〜ら、服を着なさい。」

腰にバスタオルを巻いて出て来た寛太をリビングから追い出す怜子。


「マジで腹へって死にそーなんだって!」


文句を言いながら階段を上っていく寛太の声が聞こえたのか、偶然か、颯太が部屋から姿を見せた。


「お疲れ。」

「んぁ。…あれ、来てた?」

「いや、塾だったから。」

「あぁ。だよな。」

「高見が観に行ってたってさ。…メールがきた。」

「あ、そ。」


そんな無愛想な会話が交わされ、颯太は階段を降りていき、寛太は部屋に入りドアを閉めた。

そして、ふと思う…

“…だからなんだ?俺は高見とウマくいってますアピールか?…ま、どーでもいーけど。”
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