呪女
まあ確かにここでギブアップ宣言をすれば、彼は一つの命を奪ったことを認めることとなる。

彼にとって悪評が広まり続けることよりも、そっちの方が余程恐ろしいらしい。

やっぱりわたしには分からない感覚だ。

肩を竦めながら、わたしは彼に話かけた。

「顔色悪いよ? 大丈夫?」

「あっああ…」

彼は青白い顔で、二階の廊下の窓から外の景色を見ていた。

「ウワサなんて広まるのは早いけど、消えるのも早いから。気にしない方がいいよ?」

「…分かってる」

そりゃそうだ。

彼女のウワサもまた、広まるのは早く、消え去るのも早かったのを、彼は誰よりも知っている。

「なぁ…祟りってあると思う?」

「祟り、ねぇ…。祟りより、恨みの方がわたしは怖いわね」

「恨み…」

その一言は彼の胸に重く伸し掛かったのだろう。

「祟りって言うのは主に、死者が怨んで災いを起こすことでしょう? 恨みは生きた人間が発する感情だもの。わたしはよく分からない祟りより、分かりやすい恨みの方が恐ろしいわ」

「そう…だな。生きた人間の方が、よっぽど怖いよな」
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