呪女
彼は唇を噛み締め、窓から離れた。

「もう帰るな」

「ええ、さようなら」

彼は弱々しく微笑み、手を振って歩いて行った。

わたしは彼と同じように、窓の外に視線を向けた。

目の前に広がるのは、彼女と出会ったあの山。

…思ってしまうんだろうな。

そこでふと、駐輪場に視線を移した。

彼女がそこへ歩いて行くのを見かけたからだ。

彼女は自転車通学をしており、あのバイクもイヤでも眼につくだろう。

ちょっと可哀想な気もするけど…その時見えた彼女の表情が思い詰めたような顔をしていたので、少し疑問に思った。

しかしクラスメートに話かけられ、わたしは視線を逸らしてしまった。

…きっとここで彼女に声をかけていれば、未来は変わっていただろう。

―そう、彼がバイクで事故死するという未来を。

彼はわたしと別れた後、バイクに乗って、例の山の中を走っていた。

そこでバイクはトラブルを起こし、彼は亡くなってしまった。

翌朝、彼は祟りに合って死んだのだと、誰もが口々に言った。

しかしわたしは分かってしまった。
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