呪女
「どこにそんな証拠があるのよ!」

彼女はふてぶてしく笑った。

「証人でもいるの? いるなら出してみなさいよ」

証拠も証人もいない。

証拠は彼女が処分してしまっただろうし、証人もいないだろう。

駐輪場は裏門にあり、あの時間帯、帰宅部はとっくに帰り、部活をしている生徒達は活動している最中だった。

絶妙なタイミングで、彼女はバイクに細工をしたのだろう。

彼が精神的に最も弱っている時を狙い、バイクに細工する機会を狙った。

このわたしを利用して―。

「…ねぇ。彼が何故、この山に再び訪れたか、知ってる?」

「知らないわよ、そんなこと」

「アナタに会いに来たんじゃないの? そしてペットのことを謝りたいと思ったんじゃないかしら?」

彼にとっては忌まわしい場所なのに、あの日、ここへ来た。

それは彼女に出会い、謝罪しようとした可能性が高い。

…もっとも、今となっては確認しようがないのだけど…。

「そんなの分からないじゃない! またここにスピードを出してバイクを走らせたかっただけじゃないの?」

まあ…その可能性も否定できない。

だけどアレだけ弱っているのに、その可能性は低い。

彼は憂さ晴らしを簡単にできるような人間ではない。

それは弱っていく彼を見続けて、思ったことだった。
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