呪女
「えっ…?」

わたしは傘を持つ手を放した。

そして右手で、彼女の胸に触れる。

そこは彼女の心臓の位置だ。

力強く、鼓動を刻んでいる。

「―上等ね」

わたしは笑みを浮かべ、グッと両手を強く押した。

 どくんっ!

「がはっ…!」

彼女は大きく眼と口を開いた。

わたしの手を振り切ったが、すでに終わった。

彼女は自分の胸を掻き毟り、傘を放り出し、暴れ回る。

その顔色はみるみる白くなり、眼の色が濁る。

やがて地面に倒れ、痙攣し、動かなくなった。

「ちょうど心臓が持たなくなっていたのよね。タイミングが良かったわ」

わたしは再び胸に触れる。

彼女と同じ、力強く鼓動が刻まれている。

―そう。彼女に引き受けて貰った『不幸』は、わたしの弱くなった心臓。

そして頂いた『幸福』は、彼女の残りの寿命の全て。

「コレで五~六十年は持つかしら? まあその間に、他の寿命も貰うかもしれないけどね」

わたしは落とした傘を持ち、再び差した。

踵を返したところで、ふとお墓を見てしまった。

…コレでもう、このお墓を訪れる者はいなくなってしまったのだ。

ちょっと悪いなとも思ったので、わたしは彼女の傘を拾い、動かぬ肉体に差してあげた。

こんな力があるけれど、心が無いわけじゃない。
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