呪女
彼女の声が、怒りに満ちる。

「アイツって?」

彼女が言った名前には、聞き覚えがあった。

わたしは地元の県立高校に通っていて、今は二年生。

その名前の人物は、同じ学年で別のクラスの男子生徒だった。

「数日前の夕方、このコを連れてここら辺を散歩してたの。そしたら…アイツがありえないスピードで突っ込んできて…!」

バイク…そう言えば、最近免許を取ったのだと、廊下で自慢げに話してたっけ。

そしてバイクも手に入れて、喜んで人気のない山道で暴走していたのか。

「なのにアイツは逃げたのっ! しかも翌日には平気な顔をして学校に来てっ…」

「問い詰めたりしなかったの?」

「したわっ! でも知らん顔されたの! 証拠も証人もいないだろうって」

あ~まあ確かにこんな山の中では、証人もいないだろう。

証拠だって、バイクを洗ってしまえば消し去ってしまえる。

「だからここへ埋めたのね?」

「そう…。だってもうグチャグチャのバラバラで…。拾うのも大変だったから」

そりゃあ持ち運ぶのも、大変だっただろう。

「悔しい…! アイツ、今も平気な顔をしている! 一つの命を奪ったのに、のうのうと生きているのよ!」

彼女の顔が赤く染まり、眼が大きく見開いていく。

まるで鬼のように。
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