呪女
「『不幸』次第…」

彼女は眼を伏せ、胸に両手を当てた。

きっと今は亡きペットの思い出を、よみがえらせているのだろう。

しばらくして、彼女は眼を開けた。

静かな、だけど強い意志を宿した光をその眼に映しながら。

「―分かったわ。『不幸』を引き受けるから、アイツをっ…『不幸』にして!」

「ええ、確かに引き受けたわ」

その時のわたしの表情は、きっと最上級の微笑みだっただろう。

彼女はもう少し、冷静になるべきだったのかもしれない。

わたしが彼女に与える『不幸』とは、彼女が考えるほど甘くはなかったのだから…。

でも考えないことを分かりつつ、契約を出したわたしもわたしだろうな。

きっと彼女は追い詰められていたのだろう。

ペットを殺された怒りに任せ、こんな契約を結んでしまうほどに―。

少し考えれば、おかしなことだと分かるはず。

…いや、分かっているからこそ、縋ったのかもしれない。

おかしいと分かってはいた。

けれど他に縋るモノがないからこそ、わたしに頼ってしまったのは、きっと周囲に打ち明ける人間がいなかったせいだろう。

彼は学校ではとても人気者。

勉強も運動もまあ中の上ぐらいのレベル、だけどとても人付き合いが上手かった。

恨みを買われにくいタイプとでも言おうか?

いわゆる世渡り上手な性格で、人の顔色を自然と見てしまい、順応力が抜群に優れている。

だから彼の味方をする者は多い。
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