忠犬彼氏。


「そうですね」

無理
とか
断る
とか

とか言ってもその見えない尻尾振りながら後を追う。

「そんなことはどうだっていい。
私早く帰りたい」

早く帰りたい。
早く帰して。

ああ、後悔。
彼女に口止めするの忘れたや。

「何か変ですよ」

「は?」

真顔で言われたら笑えるもんも笑えないんだけど。

「あ、いや……その」

「詳しい話しは後でにしよう。」

今はこの街から出ることが最優先。

なんて言えないけどさ。

「わかりました。」

そう言うと柴は極々自然に私の手を握った。

「な、ちょっ柴アンタ何して……」

「首輪の代わりに、しっかり握っていて下さいよ。
俺がどっか行かないように」

どこにも行かないくせに。

「了解」

「犬は走るのが好きなんですよ」

何を言い出すかと思えば……。

つまり、私のためにこの街を一緒に走り抜けてくれるって訳?

「よし、その話し乗った!」

「何の話ですか」

笑いながらそう言うけど本当はわかってるくせに。

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