忠犬彼氏。
「稟汰」
「はい……」
「もし、稟汰に何かあるようだったら私のことは知らないふりをして」
きっとあの人のことだ。
周りから攻めていくに違いない。
現にもう紗耶ちゃんに手を回している。
もし、稟汰たちに何かあったら……。
「私が、犠牲になるから。
もしあんたたちに何かあるようだったら私は迷わず稟汰を捨てて、紗耶ちゃんに引き渡す」
私の周りにいて、傷つくなんてそんなの一番耐えられない。
「それじゃあ私は行くね」
まだフラフラする足に鞭を打ち私は歩き出した。
稟汰は追いかけては来なかった。
璃子先輩、そう呼ぶ声が聞こえたような気がしたけど、私は振り返ることはしなかった。
私の目から涙がこぼれ落ちたような気がしたけど、気づかない振りをした。