忠犬彼氏。
校門が見え始めた頃、そこに立っている人物を見て驚いた。
「稟、汰……?」
ふさふさとした少しハネ気味の犬みたいな髪。きれいな、太陽に当たるとオレンジになる茶髪。
何故か、愛おしさが込み上げてきた。
私、知らぬ間に彼を欲していたの?
「先輩……」
優しく、微笑んだ。
ねぇ、稟汰。違うでしょ。その反応、変だよ。
前みたいに、馬鹿みたいに笑いながら「璃子先輩」って言いながら抱きつきに来てよ。
「久しぶり、ですね」
「……うん」
どこかぎこちない私たち。
「体調、崩したりしませんでした?」
彼は、理由(わけ)を聞いてこない。
踏み入ってはいけない領域。
だったらさ、馬鹿みたいに無邪気に、笑っていてほしいな。
「忠犬柴公」
私がそう呼べば、ふにゃっと笑った。
「馬鹿みたいに笑え」
ニッと笑いながらそう命令を下した私に、いつもの笑顔を向けながら稟汰は
「はい!」
と、元気いっぱいの返事をした。