忠犬彼氏。


傷つける宣言をされてもニコニコ笑っている奴のほうがめずらしいだろう。


「ねえ稟汰」

「はい?」

「あんたは、私の犬なんだからね」

「はい」

質問の意図がわからなくても、稟汰はちゃんと応えてくれる。

そんなことが、ただただ、嬉しかった。



『ねぇ、私のこと好き?』

『質問の意味がわからない。』

『いいから!ね、好き?』

『意図のわからない質問に答える義務はない』



意地悪だったあの人。
それでもあの人は私の“スベテ”だった。

あの人は最後、私にトラウマという贈り物を残して消えた。


本当にずるい人だった。


「璃子先輩……」

稟汰に呼ばれて稟汰の顔を見れば、むーっとした顔をしていた。

「稟汰……?」

「先輩、“あの人”のこと考えてましたよね?」

ズバリ当てられた私は少し焦った。

「顔に出てます。辛そうな、懐かしむような顔してますから」

今度からは気をつけよっと、と密かに私は誓った。


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