忠犬彼氏。
「「あ……」」
二人の声が重なった。
「早く、行こう……」
「あ、はい」
再びその腕が組まれることはなかった。
変な空気が漂う。
こんなとき美那都がいたらなぁ
とか考えてしまう。
今美那都はいないのに。
そこから映画館に着くまで私たちの間に会話はなかった。
「あ、柴が行ってたのってコレ?」
「はい。この映画を作った監督、俺でも知ってるくらいすごい人ですよ」
「ふーん」
なんかやけに詳しいな……。
「早くチケット取っちゃいましょうよ。
無くなっちゃいますよ?」
「え?あぁ、うん」
「あ、やっぱいいです。先輩はここにいて下さい」
「は?」
私の返事を聞く前に柴はチケットを取りに行ってしまった。
なんてことだ。
人の話を聞かないなんて
それから程なくして柴がチケット片手にものすっごい笑顔を振りまきながら戻ってきた。