百もの、語り。

92.鞄



小さい頃に、家に来たお客さん。

その人は、大きな鞄を持っていました。


何が入っているのか気になった僕は、
その人に訊いてみました。


すると返ってきた答えは、


     君。


鞄を開けると、
確かにそこには僕が入っていました。



驚いた僕は、両親の元へ走りました。


だけど2人とも、
お客さんなんて来ていないと言います。

そして一緒に客間へ行くと、
すでに、誰もいなかったのです。


後々思い出したんですが、
中に入っていたのは当時の僕ではなく、
今よりももう少し成長した、僕だったんです。


どうして自分だと解ったのかも、
いつか僕があの鞄に入る事になるのか。

そんな事は解りません。


ただ、鞄の中の僕は、
とても幸せそうな顔を
していた気がするんです。


……まあ、
夢だったのかもしれませんがね。





フーッ


92本目の蝋燭が消えました。


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