ゆびきり
「あの…これどうぞ。」
目の前に座っていた女性がハンカチを差し出してくれた。

「え?」

僕は、目から涙がこぼれ落ちていることに、やっと気がついた。


「落とし物じゃ無かったみたいですね。大切なものを落とし物なんて言ってしまってごめんなさい。」

女性は、そう言いながら、受けとらなかったハンカチをもう一度差し出した。


「ありがとう。」

僕は、両手でうけとった。


「では、私はこれで…」

「待ってください。」

僕は、思わず女性の肩を掴んで引き寄せてしまい、すごく至近距離になってしまった。

女性の顔は、一瞬で赤くなった。


「す…すいません。その…ハンカチを…」

「差し上げます。…こちらこそごめんなさい。お巡りさんみたいに素敵な方をこんなに近くでみたことなくて…」

僕は、慌てて肩に置いた手を離した。


「あの…ハンカチをいただく代わりに…これを持って帰って貰えませんか?」

「え?」

女性は僕の手のひらに置かれた白い箱を見つめた。

「こんな大切なもの…」

「もう、持ち主がいないんです。僕は使えないし…」


「え!あの、ちょっと…」

「巡回があるので、ぼくはこれで。」

僕は、女性に箱を手渡し、慌てる女性を置いて交番を出た。



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