ゆびきり
手を握り楽しそうに出て行くカップルをみながら
「僕たちは…もうあんな風になれない?」

と、僕は呟いた。

誰に言うわけでもなく自然に言葉に出ていた。


藍ちゃんは、少し驚いた表情で僕をみてから、目線を机の上に伏せる様に降ろした。

そして…
唇を少し開いて

「そう…だね…」

と言った。


「何で?僕の気持ちはあの頃と変わらないのに…藍ちゃんは変わったのか?」

「気持ちは変わらないわ。でも…たっちゃんをまっすぐ見れない。たっちゃんはあの頃と変わらないのに…。」

「言ってる意味がよくわからない…」

「ごめんなさい。とにかくもう無理なの。たっちゃんの側にいたら苦しいの。藍が汚れているように感じて卑屈な考えをしちゃう…」


「大人になったんだ。僕だって色々あったよ。藍ちゃんが思うほど、綺麗でまっすぐなわけじゃない。」

僕は、手にギュッと力を入れている藍ちゃんの手を握り締めた。


「たっちゃんは…藍しか知らないから、そんな風に言えるのよ。簡単に許すって言えるのよ。」

藍ちゃんは小さな声を振り絞る様にして言った。

「確かに僕は藍ちゃんしか知らないよ。でも、それっていけないこと?もっと色々遊んでる方がよかった?」

僕がゆっくり話しかけると、藍ちゃんは首を横に振った。


「良くないけど…」

僕が握った藍ちゃんの
少し震える手が、もう無理だと訴えてる様に感じた。


そう感じた時
僕の中で何かスイッチが切り替わったような感覚を感じた。

「無理…なんだね。」

僕はそう言って、藍ちゃんの手からそっと手を離した。


< 260 / 336 >

この作品をシェア

pagetop