ゆびきり
差し出されたのは透明なビニール傘。

この人は…交通課の女の子だ。何度か手続きで会ったことある。


「嬉しいけど…これ…受け取ると君が濡れるよね?」

笑顔をつけてそう言うと
顔を赤くして下を向き

「私はこの折り畳み傘あるので…その傘差し上げます。」

と鞄の中の茶色い折り畳み傘を見せた。


急いでるし…まぁいっか。


「ありがとう。友人と待ち合わせしてて急いでたんだ。じゃあお言葉に甘えて!」

「そうですか。お急ぎだったんですね。よかったです。」

そう答えた女の子は、全然良さそうではなかった。
一緒に帰ろうとか期待してたかな?

まぁ…いいか。


僕は、両手を延ばし、傘を握る女の子の手をそっとつつみこみ

「助かります。ありがとう。」

と目を見つめて言ってみた。


瞬間真っ赤になって固まった女の子から傘を受け取り傘をさして外に出た。


「あんまりからかったら可哀相だょ。」

出てすぐに居るはずのないトオの声が聞こえた。

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