ゆびきり

「あなた…指輪の…。」
美智さんの言葉に、僕の中のしまいこまれていた記憶がよみがえる。

そう！
彼女は、藍ちゃんが交番の前に置いていった指輪を届けてくれて…僕が指輪を強制的に押しつけてしまった相手。

「あれ？たっくん知り合い？」

トオは、僕と美智さんの顔を交互に見る。

「あ…あの時は、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした！」

自分のしたことを思い出し、恥かしさのあまり大きな声で謝ってしまった…。

美咲さんの両親も呆気にとられていた。


「そんな…迷惑なんて…またお会い出来て嬉しいです。」

美智さんは、にこやかな表情で答えた。


「指輪って…そうか、なるほどね。」

全てを知っていて、僕と美智さんの事情を飲み込んだトオが不適に微笑んでいたことは気がつかなかった。


その時、美咲さんのお母さんの携帯がなった。

クラシックの着メロ。

「ちょっと失礼しますね。」

そう言うと、バックの所まで行き、携帯を取り出した。

「はい…。あら…そうなの。わかったわ。すぐ行くわ。」

電話は要点を押えた内容だったようで、すぐに終わった。

きっと仕事の電話だ。


「あなた…ちょっとトラブルがあったみたいで、私を会社まで送ってくださらない？」

「ああ…じゃあ私も行こう。トオくん。帰りが遅くなるかもしれないが、娘達を頼むよ」

おじさんは、素早くジャケットを羽織ると、トオにそう言って出かけた。