求める手
悠
たとえば今、目の前の彼に手を差し伸べられれば
少しドキっとする
私は「ありがとう」とその手を取って
上手く微笑み返せてるかは分からないけど
そうして必要以上に緊張しながら
会話が終わらないように
また次の話題を模索する
たとえば会って間もない人なのに
自然と視界に映ってしまう彼のこと
気づけばどこにいても、さっきの声が
頭の中で何度も何度もリピートされている
・・・―
これじゃまるで恋する目前みたい
でもそんなはずない
きっとちがう
だって、なにも知らない
彼の名前と部活と、それから・・・少し低くて優しい声だけ
それしか知らない
ちょっとだけ他の人より近くに居た
ほんの少しだけ壁を感じなかった
それがなんとなく新鮮だっただけ