【短編】2度目の初恋
彼に会うことを考えていなかったわけではない。

ただ会うなら大勢の人がいるところで会うと思っていたので、思いがけない再会に胸の動機が速まる。



どう、反応していいのかわからない。



あの頃に戻ったかのように体が強張る。

別に男性が怖いわけではないのに。

対応に困る。




彼が何か言おうと口を開く。
その時。



「愛菜ちゃぁーん!帰るよぉー!?」



はっ、と我に返った。



遠くで自分を呼ぶ声。


歯痒い空気の流れるこの場から、立ち去れる。
そう思い、歩き出そうと一歩踏み出した。



「待って」



横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。



今日はよく捕まる日だな。

そんなことを思考の回らない頭でぼんやり考えていると、一枚の紙を握らされた。



「連絡…待ってる」



月明かりとホテルの明かりで微妙に揺れる瞳。


夢の中の光景と重なる。


不安定に注ぐ視線。



こんなことがついさっきもあった気がした。

しかしそんなことを考えられるほど余裕はなく、小さく頷いて背を向け歩き出す。


くしゃくしゃになった紙を握り締めたまま。


< 20 / 57 >

この作品をシェア

pagetop