【短編】2度目の初恋
「なんで…帰ったんだ?」


下を向いているので彼がどんな表情をしているのかわからない。
ただ怒られているのではなく、悲しそうに、寂しそうに呟かれたのはわかった。



なぜ、怒らないの?


貴方を置いて私は黙って帰ったのに。


なんで、ここにいるの?



何か発しようとしたが喉もとまで出かかった言葉は、すぐに急降下で胸の内に仕舞われる。

悪い癖。

言わなくてはいけない時に、伝えなくてはいけない言葉を自分で飲み込む。


「…昔と同じなんだな」


その一言に顔を上げたが、時すでに遅し。
彼は背を向けて門を出て行った。

寒い夜空の下。
その意味がわからず、彼が去った後を見ることしか出来なかった。



私は昔。



同じようなことをしたのだろうか…?


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