【短編】2度目の初恋
「おつかれさまでした」


今日は早番だったので夕方で上がり。
少し赤みのかかった空を見ながら、大きく伸びをする。
裏口を出、家に帰るべく路地の角を曲がった。


「っ…!」


踏み出した足を止める。


なぜ、毎度毎度タイミングよく出会うのか。

さっきまで彼女と一緒だったのではないのか。


今、一番会いたくない人物が目の前にいる。
そのまますり抜けようにも、きっと通してくれない。
そんな空気をまとっていた。


「………」


今日は何も言わない。
変わりに一歩、また一歩、距離を縮めてきた。
合わせて後ずさりするが、逆に壁に誘導されて身動きが取れなくなる。


「なんで…」


顔は見れない。
疑問ばかりが頭の中でいっぱいになる。
本当に逃げようと思えば逃げれるのに、なんで逃げないの…?


グイッ


腕をひっぱられ、前に倒れそうになる身体を抱きとめられた。


「やっ…!」


身をよじるが、息をつく間もないほどに力強く体を拘束する腕。



なぜこんなことをするのか。

悔しさと腹立たしさで目頭が熱くなる。



貴方には彼女がいるのでしょう。

これ以上惑わせないで。


私の心をかき乱さないで…


< 30 / 57 >

この作品をシェア

pagetop