【短編】2度目の初恋
「…はなして」


その声に相手の体がビクリと反応する。
それと同時に徐々に自由になっていく体。
少しずつ離れていく、二人の距離。
相変わらず彼の顔は見れない。


「また…何も言わないのか…?」


名残惜しげに指先だけを握られた。
上から聞こえてくる声。
甘えるように囁かれる。



気を、許してしまう…



やんわり握られた手を振り解き、踵を返した。
これ以上、ここにいたくない。
彼の傍にいたくなかった。


「そっか…」


後ろで気弱そうに聞こえてくる呟き。
それを聞こえていないという風に、駆け足でその場を去る。



もう、なにも、考えたくない。

初めからなかったことにしたい。



あの成人式の日から何かが動き出している。

私の知らない何かをあの人は知っている。
何度も思い出そうとし、それが叶わなかった。
私の欠けた記憶をあの人は知っている。


だが彼にはもう、大切な人がいる。


私の入る隙間など――――




ない…


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