【短編】2度目の初恋
最近、質問されることが多い。

そんなことをぼんやり考える。
昔のことなど、断片的にしか覚えていない。


「…なんのこと?」
「ほら、りょ…進藤が愛菜のことを好きだって話していた時のこと!」


わざわざ言い直さなくてもいいのに。
だんだん面倒くさくなってくる。
今更そんな話を持ち出し、どうしたいのか。


「覚えていない」


もうどうにでもなれ。


そんな気分になってくる。

なんで私は、再度気になり始めた人の彼女の話につき合っているのか。
とんだピエロだ。


「ほんっっっとうに、覚えてないの?」


椅子から降りて、目の前に座り込む。
まじまじ見てくるその瞳に自分の姿が映る。
だから、なんだというのだ。


「…本当に」


ため息混じりに答える。
本気で言っていると理解したのか、向こうは盛大にため息をつく。


「はあぁー…それでかぁ…」


下を向いてうな垂れるその意味がわからない。
うな垂れたいのはこっちで、なぜ今、この話を盛り返すのか。


一度は思い出すことを諦めた記憶。

その記憶に映る目の前の相手と初恋の人。



“その二人がつき合っている”



別に思い出したところで、どうにかなるわけでもない。


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