【短編】2度目の初恋
彼女が化粧室に行っているとき。

たまたま美咲と出くわした。


あまりに緊張しすぎて、強張っていた糸が緩むのが自分でもわかった。
「頑張りなさいよ」と言われ、今、自分がずっと好きだった女の子とデートしているんだと再認識する。
せっかくのチャンスなんだから!と渇を入れられ、気合を入れ直した。


そうだ、自分を知ってもらうチャンスなんだ!


美咲と別れ、これからどうしようかとデートプランを立て直す。
こんな気持ちは初めてだった。

なんだかわくわくしてくる。



だが、彼女は化粧室からなかなか帰ってこない。
いくらなんでも30分はかかりすぎだろう。
首を捻っているところへ、美咲から電話が来る。


『愛菜を自宅付近で見かけたけど、なにかした?』


血の気が引いていく。
彼女と美咲の家は近かった。
他意はない。

“彼女は帰った”

そう、頭で理解する。


『もしかして…話してるの見られたかな?』


通話は続く。

亮也と話している時、ちらっと愛菜が視界に入ったんだ。
そういや昔にも一度だけ、私と亮也が話してるの見て黙って回れ右して帰ったことがあったよ。

耳から入るのは慰めと昔話。
ここは怒るべきなんだろうか?
たぶんもっと若かったら、いの一番に怒っていただろう。
いや、でも、ヤキモチだったら…


かなり嬉しい。


怒りよりも嬉しさの方が勝った。
過去、今までそんなそぶりを一度も見たことがない。
彼女が初めて見せた、感情表現。

ただ、本当に飽きられて帰ったのかもしれない。
でも黙ってそんなことをするような人ではないのは知っている。


ここはどう出るべきか…



結局そのまま延々と電話相談は続き、自宅に訪問することになった。


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