【短編】2度目の初恋
あの日何もする気が起きず、たまたま散歩をしていたら美咲と出会った。
あまりに暗い顔をしているもんだから心配してくれ、「お茶をおごる」と誘われてあのカフェに入った。


そこに彼女が働いていると聞いた時は運命かと思った。

神さまがもう一度チャンスをくれたのだ、と。



“もう一度、ちゃんと話してみよう”



ホールにいるバイトさんに終了時間を聞き、裏口付近で待ち伏せる。
時間通りに上がり、彼女がこちらに向かってくる。
自分を見た途端、驚きで目を見開いた。
一歩、一歩、近づいていくが、逃げる気配がない。

まだ、可能性はあるだろうか…?

だが気の利いた言葉が浮かんで来ず、言葉より先に体が動いた。



腕の中に閉じ込めた人は思いのほか小さくて、愛しくて、離したくなくなってしまう。


このまま攫えたら、どんなにいいか。


自分だけのものに出来たら、どんなにいいか。




「…はなして」


静かに聞こえたその声に、我に返った。
なんてことをしてしまったんだろう。
でもすぐに離れるのが惜しくて、ゆっくり、少しずつ身体を離す。
そう思うと同時に、やはり言葉で聞きたかった。
自分を嫌いになってしまったのか、と。


しかし言葉が繋がれることはなく、無言で去っていく後姿。


…未練たらしいにもほどがある。

もう十分だ。

諦めよう。





「ごめん」


言葉のした方を見る。


「もう…迷惑かけないから」



もう、そばには近づかないから



そう聞こえた。
言い終えると彼は立ち上がり、公園の出口まで行こうとする。




違う。



そうじゃない。



私はあなたが…


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