【短編】2度目の初恋
「言うまで、待っててあげるよ」



言うまで、離さない



私にはそう聞こえた。


自分の意見をなかなか言い出せない私にとって、沈黙が待てない人とはつき合えない。

たぶんそれをわかっているのだろう。

先輩の強行手段より性質が悪い。
それを心地よく思うと同時に『もう逃げられない』と、頭の隅で理解する。



初恋の人は神経が図太くなり、パワーアップして私の元に帰ってきた。

なんでこの人が好きなのか、未だにわからない。

でも、私が言葉を発するまで待っててくれる。


今はそれだけで、嬉しく思う。






「愛菜」


差し出された手を握り返す。


「好きよ」


にっこり笑い、顔を覗き込む。
大きな目がさらに大きく開かれ、足が止まる。
そしてみるみるうちに頬が赤くなっていった。


「…いつもは頼んでも言わないくせに」
「えへへ」
「不意打ちすぎだろ」


繋いでいた手を強く引かれ、バランスを崩す。
それを支えるようにして後ろからすっぽり包められ、肩に顔を埋められる。


「いつもの仕返しだもん」
「ほう…」


首筋にかかる吐息。
ぞわり、と嫌な予感がする。


「では、それに答えなければいけないね」


獲物を捕らえたときのような、本当に楽しそうな声が上から降ってくる。



“この人に勝とうだなんて思ってはいけない”



その日一日かけてそれを思い知らされることとなった。


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