ヒロイン 完
「無理です」


「何で?」



何でって。


泉さんが開けてくれている冷蔵庫に、私は慎重にケーキを中に入れた。



「急ですし」


「急じゃなかったらいいの?」


「親に言ってないし」


「電話じゃ駄目?」



私の家がゆるいの知ってるくせに。


エプロンを外し泉さんと向き合う。


あ、失敗。


向き合わなきゃ良かった。



「着替えないし」



学校帰りだから制服です実は。



「スウェット貸すよ」


「し、下着ない」


「……」



泉さんは無言で台所から消えていった。


あ、諦めた?


後に続きリビングに行くと携帯電話を丁度閉じた泉さんがいた。


私の方へ振り向いて満面の笑みを浮かべる。


やばい。


嫌な予感がする。


ちょー、する。


私、何でか知らないけど嫌な予感だけは昔から当たるだよ。



「さ、奈緒ちゃん」


「はい」


「お風呂入っておいで」


「……はい」



ごめんなさい。


神様。


私は親に友達の家に泊まると言って男の人の家に泊まります。


ごめんなさい。
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