ヒロイン 完
「い、泉さん?」



何だか、ご機嫌が麗しくないようで?



「あ、でたんだ」


「はい、お先に頂いてすいません」


「いえいえ、てか俺のじゃ少しでかいね」



少しどころじゃありません。



「じゃー、俺も入るね。お金置いとくからピザ屋来たら払っといて」


「はい、わかりました」



テレビをつけ、手持ちぶさたにリモコンをピコピコしていたらチャイムが鳴った。


あ。


テーブルに置かれたお札を掴み玄関に向かう。



「はーい」



パタパタパタ。


スリッパが鳴る。その音を密かに気に入っている私。



「どーもー、ピザラットでーす。て、あれ?神山じゃん」


「……どちらさま?」



ひょいっと帽子を外されても分からないもんは分からない。



「同中の山崎」


「ヤマザキくん?」


「もーいー。金」


「接客態度悪。御客様センターに電話してやる」


「さーせん。お代金頂戴させて頂きます」


「ん」



ピザを受けとって、しばし考える。ヤマザキくん?あっ、思い出した。恭二といつも廊下に立たされてた奴じゃん。



「あ、きたんだ」



部屋に戻れば丁度湯上がりの泉さんがいた。髪を伝う雫が色っぽい。



「丁度、今来たとこです。はい、お釣りと領収書」


「はい、丁度」


「ビールですか?」


「さすが奈緒ちゃん」



そう言われて喜ばないはずがない。嬉々として泉さんのグラスにお酌した。
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