ヒロイン 完
「いいから、早くおいで」


「無理です」



ここは引けない。


絶対に引けない。



「何もしないから」


「そうゆー問題ではなくて……」



ベッドの上にゴロンとしてる泉さん。


少しふてくされた顔をしながら右肘を付き頬杖を付いている。



「俺ってそんなに信用ない?」



悲しい顔をさせてしまった。



「ち、違います!ありますよ!信用!」


「じゃー、早くおいで」


「……ソファーで寝ます」


「だーかーらー」



上半身を起こし真っ直ぐ瞳を向けられる。


う。



「俺、女の子をソファー寝かせる趣味ないから」



駄目だ。


毎度のことながら私はこの瞳に逆らえない。


だから。


頷いてしまった。



「奈緒ちゃん」



彼に呼ばれると自分の名前が少しだけ好きになる。



「おいで」



彼に呼ばれると無意識に体が引き寄せられる。


彼が差し出した手に触れたくて。


触れたくて。


触れたくて。


触れたくて。


私は自分の汚い手を綺麗な彼の手に重ねてしまった。


というか捕まえられた。


一瞬、躊躇した手を温くて大きな手に捕まった。
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