ヒロイン 完
ピリピリした空間に沈黙が続く。どちらも口を開かず、皆の数歩後を歩いている。



「奈緒ちゃん」



沈黙を破ったのは幸大くん。先ほどまでと同じ口調に聞こえるが、その声には警戒心が込められている。



「ん?」


「何で、ちーちゃん嫌いなの?」


「……」



何で?


私からしたら何で皆「何で?」って聞くのか分からない。


嫌いなものは嫌い。


人を好きになるのに理由なんていらないって誰かが言ってたけど、だったら人を嫌うのにも理由なんていらないと思う。


まー、理由あるにはあるけどね。


誰にも……彼には絶対知られたくない、この醜い感情を。



「水城」



緊迫する雰囲気に割って入って来てくれたのは、まっちゃんだった。



「まっちゃん」


「お前ら遅い。置いてくぞ」



まっちゃん。聞こえてたかな?むしろ何か察した?


まっちゃん、エスパーだからなー。



「神山ー!」


「ん?」


「八ツ橋食うか?」


「食う」



先を歩く颯太が八ツ橋の箱を持って駆け寄って来た。


私は差し出された八ツ橋にすぐさま反応して手を伸ばす。


うまっ。さっそくの買い食い、ちょう幸せ。しかも超定番の品。


あー、美味しいって何よりの幸せだよね。
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