ヒロイン 完
京都の町並みを美しいとか言っている場合じゃなくなった。リアル修羅場だ。



「嫌に決まってんでしょ!」


「駄目だよ。ほのか我が儘言っちゃ」


「我が儘って……あんたのせいでしょ!」


「ほのか、香宮家の人間がそんな言葉使いしちゃ駄目だ。まぁ、僕はそんなほのかも好きだけどね」


「うざい!消えろ!」



だんだんとヒートアップしていくほのかに対して、いたって冷静な千里さん。


ほかこの人、大物だ……って感心してる場合じゃない。


ほのか、泣きそーだし。



「ほのか」



諭すように名前を口にした千里さんにほのかの中の何かが切れた。



「何よ!あんた何かと結婚なんて死んでも嫌だから!私には紫がいるんだから!」



あ、そー言えば。忘れてたよムラサキくん。


それにしてもほのかすごいね。


この歳で結婚とか、お見合いとかって、本当に忘れちゃうけどほのかって、お嬢様なんだね。



「離してよ!」



ほのかの叫ぶ声に私の体が動く。まっちゃんの制止の声なんて聞こえない。


「ほのか、僕は君に彼氏がいても別に構わないよ。今はね」



何を言ってるんだ、こいつ。


の涙ぐむ顔と意味不明な発言に、だんだん苛々してきた。



「でもね、ほのかと僕が結婚するのは決まってる。僕の家のためにもほのかの家のためにも。そして……ほのかの彼氏のためにも」


「……ッ」



とうとうのほのか瞳から涙が溢れ落ちた。



「離せ」



掴まれていたほのかの腕を奪い、私は千里さんを睨み付けた。


一瞬顔を顰めた彼は、すぐに笑顔を貼り付ける。



「じゃあねほのか。明日の正午いつもの場所で」


『……』



颯爽と去って行った千里さんの後ろ姿を暫く皆何も言わずに睨んでいた。


嵐が去った。否、嵐の前の静けさか。
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