ヒロイン 完
襖を挟んで一枚向こうにほのかと千里さんがいる。


私達は、ぴったり襖に耳をくっつけて向こう側の声を聞いていた。いわゆる盗み聞き。


ほのかに付いていった場所は、ぽかんと口が開いてしまったほどの料亭。きっと、こんな敷居の高そうな場所、二度と来ないだろう。


そして私たちは、そんなところで何をしてるんだか……。すでに虎さんは昨日同様、一人離れた所で煙草を吸っている。


あー、ほのかちゃんキレてるね。



「蓮さん」



私はソワソワした感じで虎さんの名を呼んだ。私の気持ちを察したらしい虎さん携帯片手に部屋を出て行った。



「奈緒?」



千夏ちゃんが、不安気というか困惑した表情を私に向けた。


やばっ。千夏ちゃんに言ってなかった。


どうしよーって思っていたら襖の向こう側からガチャンと音がした。


それに反応した朱吏さんと幸大くん。一瞬、目がキランてなった。愚連隊の目だ。


続いて聞こえてきたのは、ほのかの涙声の混じる怒鳴り声。



「何でっ!断るって言ってるじゃん……ッ」


「ほのか、座って」


「千里が!ッ……千里が先に私を裏切ったんだよ!なのに、今更……ッ」


「ほのか」


「私は……ッ、私は、もう千里が好きじゃない」



そっか。ほのかちゃん、昔は千里さんが好きだったんだ。


だからほのかは、ちゃんと向き合うことにしたんだね。


襖に背を預け、なんとなく天井を見上げる。



「結局、千里は私と結婚したいんじゃなくて、私の家と結婚したいんでしょ!?だから、だからあんな……ッ」



ほのか、泣いてる。二人の過去に何があったかなんて知らない。知りたくもない。



「私は紫が好き」



ほのかの真っ直ぐで純粋で白すぎる想いに私は目を瞑った。


耳も心も何もかも閉じて全てを拒絶した。
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