ヒロイン 完
私の腕を掴んでいる手を見、そこからゆっくりと視線を上げていく。そして、その人の顔を捉えた瞬間、背筋が凍った。



「幸大くん……」



情けなくも、私の声は震えていた。



「お前、何?」


「……」


「ちーちゃんに嫌がらせ?」



違う。そんなんじゃない。私は、そんなちっちゃい女なんかじゃない。



「お前が、ちーちゃん嫌いなのは知ってる。だがな……」


「……ッ」


「大概にしろよ」



フラッシュバックするのは恭二に殴りられたあの日。


怖い怖い怖い怖い、怖い。


何で?何で私ばっかり、こんな目に遭わなきゃいけないの?


私が何したの?私が、いったい何をしたっていうの?


怖いのは、もう嫌。


面倒なことは、もう嫌。


もう何もかも、めんどくさい。



「おい、聞いてんのかよ」



俯く私の顎を持たれ無理矢理、顔を挙げさせられる。



「幸大、離せ」



虎さんが、やっと止めに入ってくれた。しかし目の前にいる冷酷極まりない男は止まらない。



「俺達の姫、泣かせてんじゃねーよ!」


「……ッ」



男は顎を掴んでる手と反対の手を振り上げた。
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