ヒロイン 完
痛みを覚悟し堅く目を閉じ、ペンダントを握り締めた。


しかし、数秒待っても痛みが走ることはなかった。


その代わり幸大くんや周りの人たちが、息を呑むのが感じ取れた。


私はペンダントを握ったまま囁くように彼の名前を呼びながら恐る恐る瞼を上げた。



「いずみ、さん……?」


「ごめんね奈緒ちゃん。残念ながら愁じゃなくて俺なんだ」



そう笑って言ったのはスーツ姿の逞さんだった。



「え、逞さん?何で……」


「もう大丈夫だよ。残念だけど今日は帰ろっか」


「……はい」



頷いた私に逞さんは耳打ちした。



「倉庫の外に愁いるから、行っておいで」



それを聞いた瞬間、私の足は動き出していた。
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