ヒロイン 完
倉庫を飛び出せば、いつもの車に寄りかかる彼を瞳が捉えた。瞬間、自然と涙が頬を伝った。


私の居場所は、ここじゃなかったんだ。


私がいたいと想うのは彼の隣だけなんだ。


でも……彼は?



「奈緒ちゃん」


「……ッ」



私は、涙を見られたくなくて、ぐいっと袖で拭った。


でも、彼の胸に抱き締められると嗚咽が止まらなくなる。


汚いものが全て吐き出されていくみたいに。



「ごめんね」



私は嗚咽を抑え首を横に振った。


何で謝るの?



「俺、黄龍の人間じゃないから倉庫の中に入れないんだ」



私は再び首を振った。


来てくれただけで嬉しい。


彼の温もりを感じるだけで私は外の世界から守られている感じがする。



「いずみ、さん……」


「ん」


「居場所がないの」



私はあなたの隣にいて良いの?



「……」


「何処にもないの……ッ」


「……」


「見つからない」



わからない。



「……」


「生きている意味が分からない」



胸の奥にしまい込んでいた感情が溢れ出す。


言葉にしてしまった瞬間、恐怖が襲った。


怖い。


何で私は、こんな感情しか持てないの?


嫉妬の塊ばかりの感情。


人間を否定するような感情。


人間を見下す感情。


自分は傍観者のように、いつも逃げてばかり。


自分から関わるのが怖いくせに本当は独りじゃ何もできなくて、独りになるのが怖くて、都合のいい人間に縋ってばかり。


こんなにも汚い私が、あなたの隣にいても良いんですか?


泉さん。


あなたは私を否定しないでくれますか?
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