ヒロイン 完
準備、最終日。


そして今日は前夜祭。



「ねー、まっちゃん」



クラスに持ち運ばれたソファーに座っている私の隣には、まっちゃんが煙草を吸いながら天井を見つめて座っていた。


先公が教室で、しかも生徒の前で煙草ってどうよ?



「何だよ……」


「変な噂が流れてるんだけど」


「へー、どんな?」


「まっちゃんと私が禁断の愛を育んでいるらしい」


「それ、お前の所為だろ」



は?


ソファーの上で体育座りしていた私は、まっちゃんの方へ体ごと向きを変えた。


まっちゃんはチラリと視線を向け、また戻し煙草を口に運んだ。



「パンツ見えんぞ」



その言葉で私は体育座りから正座に変え言葉を待った。


正座にしたのは間違いだったかもしれない。



「お前、このソファー男子に運ばせる時なんか言ったろ」


「……」



確かに言った。


言ったけど、あの言葉に深い意味はない。



「それを馬鹿が勘違いしたんだよ」


「……」



勘違いした奴、本当に馬鹿だと思う。


まっちゃんは短くなった煙草を灰皿に押し付けた。



「まっちゃん、ごめんね」


「は?」



驚いたように私を見たまっちゃん。



「ソファー無理矢理、持って来たからバーコード教頭に叱られただろうし。その……変な噂がたったからバーコード教頭にお咎めくらっただろうし……」



私は俯いたまま、ぼそぼそ呟いた。


盛大な溜め息を吐く、まっちゃんに恐る恐る顔を挙げた。


まっちゃんは笑ってた。



「お前なー、いつもそのぐらい素直なら可愛気があるのになー」


「は?」


「まー気にすんな。ソファーは校長が許可くれたし噂なんか、その内消えるから。ほっとけ」



まっちゃんは、そう言って私の頭を撫でた。


ツルリン校長。


あんたは相変わらず良い奴だ。
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