ヒロイン 完
「冗談だって」



クスクス笑いながら触れていた手を離した。


私は恐怖なんか忘れて泉さんの温もりが名残惜しくて、泉さんの手を掴んでしまった。



「ん?」


「あ、いえ……何でもないです」



私は慌てて手を離して手を後ろに隠した。



「奈緒ちゃん」



泉さんは、また頭を撫でてくれる。


見上げれば唇が触れてしまいそうなほど近くにいる彼に心臓が煩いほど鼓動を打ち出す。



「このまま帰るなら送るよ?」


「……」



私は少し戸惑い、でも首を横に振った。


このまま帰ったら皆が心配する。



「そっか」


「ありがとうございます」


「何かあったら俺を呼べよ?」


「はい」



泉さんの言葉に顔が緩む。



「泉さん、ありがとうございます」



温もり、眼差し、声、全てから彼の優しさが伝わる。
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