ヒロイン 完
轟々と燃える力強い火。


空に舞うほのか。


そして私達の手に持っているのは花火と書いて危険物と呼ぶもの。


そう、後夜祭は花火大会なのだ。だから私達は今日、全員が浴衣着用となった。



「ちょっ、こっち来ないで!」


「一緒にやろうって言ったのお前だろー」



うん、言った。確かに言ったけど……。



「恭二が花火持つと危険物に変わるの忘れてたっ!」


「危険物って……お前」


「ちょっ、だから熱いって!こっち向けんな!」



花火は人に向けちゃいけないって習わなかったのか!


両手に花火を持った恭二がニヤニヤ笑いながら追いかけて来る。


浴衣じゃ走れない!


そして視界の端に映った、あるもの見て今度は私は口の端を上げた。



「おい、馬鹿。それはやめろ……」


「ごめんなさい。これ借りますね」



困惑する後輩らしき男の子から奪い取ったのは“人に向けてはいけません”と大きく書いてある打ち上げ的な手持ち花火。


ポン!ポン!と空に放たれる噴出口を迷わず恭二に向けた。



――――― ポンッ!



「……」



それは恭二の頬スレスレに向かって放たれた。



「な、奈緒……お前」



恭二の顔から血の気が引き、私はニヤリと悪戯に微笑んだ。


先ほどとは逆にギャーギャー叫びながら逃げる恭二と、ゆっくりした足取りで追い掛ける私。


飛び道具って便利ー。あ、消えちゃった。


キョロキョロと同じものを探していると肩に手を置かれた。



「まっちゃん?」


「その辺にしとけ。相良が不憫で仕方ねー」



口の端に煙草をくわえながら苦笑している、まっちゃんの視線の先には颯太の背に隠れた産まれたての小鹿のように震える恭二がいた。
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