Love Story【番外編集】
彼が出て行くと同時に入ってきた、ひとりの男。
紛れもない私の目下のコイビトである。
「ごめん、理恵ちゃん、ひとりにして。…怒ってる、よね?」
“全然、返信なかったから”
仕事終わりに急いで来たのだろうか。
いつもは綺麗に整えられている髪が、すこし乱れている。
仕事なのだから仕方がないということくらい理解しているし(殊に彼は新入社員だから余計にそうだろう)、それに対してとやかく言うつもりはない。
でも、不機嫌になったふりをして、今みたいに分かりやすく機嫌を取られるのも悪くない。
駆け引きは男女間の醍醐味だ。
でも、今夜は。
あの子の助言通り、すこし素直で可愛い女になってみるのもいいかもしれない。
「帰ってくる、って思ってたから、待ってたのよ。今夜はやっぱり、一馬と過ごしたかったしね」
そう言って微笑むと、彼が言葉を失ったように立ちつくしている。
いつもと明らかに違う私に驚いているんだろう、無理もない。
「え、えぇ?どうしたの、なんか、理恵ちゃんが可愛いんだけど!」
「失礼ね、私はいつだって可愛いでしょ?」
また不貞腐れてみせると、“いや、いつも可愛いよ”なんてまた慌てている。
その必死な顔は可愛くて、実は私のお気に入りだってことはだれにも言わない秘密だ。
「それに、思いがけない人と意外にも楽しい時間を過ごせましたから」
だれ?男?ナンパされたの?なんて、質問攻めの彼に腕を絡め、夜の街にふたりで溶ける。
『おめでとう』と呟くと、彼がまた不思議そうに顔を覗かせる。
なんでもない、という風に首を振り。
そして、そっと彼にキスをした。
#01 深夜23時の密談