Love Story【番外編集】


「それで?こんなところにおひとりで、どうなさったんですか?」

“菜穂は?”


今夜は金曜。時間も時間だ。
恋人のいる男がこんなところでひとり飲んでいるなんて、あまりにも不自然。
(もっとも。私も人のことを言えた義理じゃないけれど)

それに今夜は珍しく、菜穂は定時で帰ったはずだ。
てっきり目の前にいる男と過ごすんだろうと思っていたのに。

(菜穂の話じゃ『引っ越しの準備で散らかりっぱなしだから』と、あの娘の家に転がり込んでるそうだし)


「大学時代の友達と会うから、帰らねぇんだって。で、暇だから出てきた」

「金曜の夜に、ひとりで?」

そう言って、シャネルを引いた唇を綺麗に上げて見せた。
その言葉の裏にわずかな嘲笑を込めたことを、この男は気づくだろうか。


「それは、きみもだろ?」

同じように口角を上げて、笑う。
この男には、すべてを見透かされている気がしてならない。
男に置き去りにされたという事実も、“分かって”いそうな気がする。

“不敵”とはまさにこの顔を言うのかもしれない。



目は逸らさなかった。相手も然り。
カクテルグラスを持ち上げて。

「せっかくだし。乾杯、しませんか?」

静かに、そう告げた。
男は“名案だ”とでも言うように、同じようにカクテルグラスを持ち上げ、同意を示す。



「菜穂も、大変ね。こんな性悪男と結婚だなんて」

「類は友を呼ぶって言うけど。腹黒さはあいつ以上だな」

人ひとり分というなんとも微妙な距離を空けて、性悪男と腹黒女の真っ向勝負。
お互い、やっぱりまだ目は逸らさない。


「哀れな我が親友に」

「哀れな我が婚約者に」

“乾杯”

乾いたグラスの音が響いた。

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