Love Story【番外編集】


ごく自然と、胸ポケットからマルボロを取りだし、紅い火を灯す。
たったそれだけの動作なのに、ひどく妖艶だった。
男だというのに、そこらの下手な女供よりよっぽど色気がある。


「――煙草…」

「…あぁ、ごめん。嫌いだった?」

“ごめん”と、とりあえずの謝罪の言葉を口にするものの、その火を消すつもりはないらしい。
ただでさえ、価格高騰の昨今。
惜しいという気持ちは分からなくもない。


「いえ、むしろ愛してます。…でも、“実質上”初対面の相手の前で、許可なく吸い始めるなんて、マナーが悪いとは思いますけど」

“身勝手で狡いけど常識はある男だ、って菜穂から聞いてたんですけど。あの言葉は、惚れた欲目だったんでしょうか?”

グラスに残っていた琥珀色の液体を喉に流し込む。
横目で男を視界に捕らえながら。



「それは、スミマセンデシタ。考え事してたってゆうか…つい、ね」

ばつが悪そうに、少し顔を歪める。
これはあの娘ですら頻繁には見れない、なかなかレアな光景なのではないか?
写メにでも撮って送ってやりたい。


「考え事、ですか。“いちいち許可をとる必要もないくらい親密な人”のことでも考えてたとか?」

再度彼に向き直り、得意気な顔を浮かべる。
あの娘が散々手こずった“仲山要”を打ち負かしたような気がして、少し、気分がいい。


「“金曜の夜”に俺が“ひとり”で“菜穂”のことを考えてる、って思ってるんだ?」

“意外と乙女思考なんだな”

くく、と喉をならして、またも猛毒の煙を吸い込む。

…むかつく。食えない男だ。

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