Love Story【番外編集】
ふと、彼の右脇におかれた灰皿に目をやる。
とても“少し”とは言い難い吸い殻。
これを彼がすべて消化したというなら、とんだヘビースモーカーだ。
私の視線がそこにあることに気づいたのか、口を開いた。
「分煙だの禁煙ブームだのでどんどん肩身が狭くなるけど、どうもやめられなくて」
“やめられない”と言ったものの、当の本人はやめるつもりなどさらさらないようだ。
気持ちは、痛いほど分かる。
値上がりしようと白い目で見られようと、どうしたって切れない関係。
―――…でも。
「噂どおりの身勝手な人ですね。あの娘にはやめろって言っておきながら、自分はいまだに愛煙家?」
菜穂があんなにも愛していた煙草をやめたのは、入社一年目の秋だった。
夏が終わるまではふたりで足繁く喫煙ルームに通っていたのに。(そういえば、菜穂とはじめて話したのも社の喫煙ルームだったっけ)
盆休みが明けるや否や、急に『禁煙することにした』と言い出したのだ。
まるで苦虫を噛み潰したかのような、なんとも複雑な顔をして。
理由を問いただすと、一言言ったのだ。
止められたから、と。
“勝手すぎ。連絡ひとつ、まともにしてこないくせに”
不満そうにそう言ったものの、あの娘は律儀にその後2年年以上も言いつけを守った。
(結局耐えきれずに、先月からまた吸い始めたけど)
『男のために、あほか』と思った(むしろ、そう言った)けど、菜穂は曖昧な表情で複雑そうに笑うだけだった。
――惚れた弱味だったんだろう。
結局、あの娘はこの男に抗えないのだ。