Love Story【番外編集】

あぁ、なんだ。
この男は、この男なりに、ちゃんとあの子のことを想っていたのだ。
きっと、ずっと前から。

不器用だったのは、彼女だけではなく。
ポーカーフェースの裏側には、深い愛情があった。


「ねぇ。今言ったこと、菜穂に言ってもいい?」

勝ち誇ったような笑みを浮かべたつもりだったが、きっとこの男には見透かされていたのだろう。
男はなにも言わずにまた不敵に微笑んだ。


図らずとも自然と並べられていた、二つのiPhoneがほぼ同時に震え出す。
先程私を置いて出て行った彼からの、再度の誘いを光らせる私のそれとは異なり、彼は画面をスライドさせ、そして耳に当てた。

誰からの着信なのかはすぐに検討がつく。
素っ気ない受け答えとは対照的に、その横顔はひどく優しかった。


感情表現が得意でなく、実はとても臆病な菜穂は、常に他者と一定の距離を保ち、あまり深入りしようとしない。

きっとかつてのこの男に対してもそうだったのだろう。
過去に自分が言ってしまった言葉に縛られ、尚且つ嫌われるのを恐れ、きちんと向き合うということを避けていた。

そんな菜穂に、もしかするとこの男も長い間どうしていいのか分からなかったのかもしれない。
やっと手に入れた、とそう思ったのは。
彼も同じだったのかもしれない。

どこまでも似たもの同士で不器用なふたり。


ーーこんなことを考えていると知れたら。
また『乙女思考だ』と笑われるだろうか。
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