Love Story【番外編集】
相変わらず私のiPhoneは彼からの誘いを光らせ続けている。
いつの間にか通話を終えたらしい彼が、それに気づいた。
「さっきからずっと鳴ってるけど、返事しなくていいの」
「いつでも相手の思い通りに動いてたら、つけあがるだけですから、男は」
“駆け引きは女の知恵です”
言葉の裏に軽い嫌味を込める。
まぁあの子はきっと、そんなことできないだろうけど。
そして、そんな彼女だからこそ、彼も側に置くのだろう。
女は怖いな、と呟き、微笑を浮かべる。
そして、まだ長い煙草を灰皿に押し付け、ゆっくりとスツールから降りた。
「悪いけど、仕事残ってるから。続きは彼氏と楽しんで」
会うつもりはない、と言った私の言葉を聞いていなかったのか。
はたまた、根気負けした私が結局会うことになると予測したのか。
答えはきっと後者だろう。
“ねぇ”
会計を済ませ、上質そうなカシミアのマフラーを巻きつける彼の背中に呼びかける。
相手の方は見ずに、前を向いたまま。
「頼むわよ、あの子のこと。また泣かせたりなんかしたら、今度こそ許さないから」
幸せにしてあげて。
幸せになって、ふたりで。
3ヶ月後には遠い異国へ旅立つことになる親友の姿を思い浮かべる。
二度と会えないわけではないが、今のように頻繁に顔を合わすことはきっともうない。