桜の花びら舞う頃に
「久しぶりだな、こういう喧嘩は……」


悠希は痛む頬を、そっと手で押さえる。

どうやら多少腫れてきているようだった。

熱を帯びている感もある。

数時間もすれば、今よりもっと腫れていることだろう。


「参ったな……」


この顔で拓海を迎えに行けば、拓海、そして由梨の両親から心配されるのは目に見えていた。



「悠希……痛むのか?」



ベッドの上の玲司が、不意に口を開く。


「悪い……起こしちゃったか?」

「いや、ずっと起きてた」


玲司はそう言いながら立ち上がり、タオル取り出し水道水で濡らす。

そして、冷凍庫からいくつか氷を取り出すと、そのタオルでくるみ悠希に手渡した。


「サンキュ!」


タオルを受け取った悠希は、それを頬に当てる。

冷たい刺激が、熱を持った頬に気持ち良かった。


「あ~、眠れねー!」


玲司は、そう言いながらベッドに飛び込んだ。

ボフッという音を立て、玲司の身体がうつ伏せに弾む。


「どうした?」

「なぁ、悠希……」


玲司はうつ伏せのまま、悠希に話しかけてきた。


「悠希、麻紀ちゃんって……どう思う?」

「どうって……明るいし、いい子だと思うけど?」


悠希は上半身を起こして答える。


「だよな~! 彼女、性格もいいし、可愛いし~!」


玲司は足をバタバタと動かす。


「彼女のことを考えると……眠れないんだよ、俺……」

「はははっ、いい恋してるじゃん!」


玲司を励ますように笑う悠希。


「まぁな……」


玲司は苦笑した。


「で……悠希、お前はどうなんだよ?」


玲司は、足をばたつかせるのを止め、悠希に視線を向けた。






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