桜の花びら舞う頃に
第20話『Peace!』
モミノキ薬品の駐車場に到着した白いステーションワゴン。


悠希はその愛車からおりると、ドアをバタンと閉めた。



「よしっ」



短く気合い入れ、正面玄関へと歩き出す。


その時、スーツの背中をポンと元気に叩く者がいた。


「おはようございます、香澄さん」


悠希は、挨拶をしながら振り返った。

そこには悠希の1つ上の先輩、市川 香澄が笑顔で立っていた。


「月島くん凄いねー!」

「え? 何がです?」


言葉の意味がわからず、思わず聞き返す悠希。


「だって、振り返る前から私ってわかったでしょ?」

「ああ」


悠希は笑う。


「だって、朝からこんなテンションしてるのは、香澄さんしかいませんよ」

「そうかもね」


そう言って、2人は笑い合った。


「あら……?」


その時、ふと香澄は何かに気がついたらしく、笑うのを止めた。


「月島くん……頬」


香澄はそっと手を伸ばす。

反射的にのけぞって、その手を避ける悠希。


「い……いや、これは……」


タイガーに殴られた跡は、注意深く観察しないと、なかなかわからないはずだった。

それを、この短時間で気付いた香澄。

その観察力に、悠希は驚きを隠せなかった。


「どうしたの?」

「いや……ちょっと……転んで……」

「ふ~ん……」





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