桜の花びら舞う頃に
そして……





さくらがいた。






窓のそばに立つさくらは、教室に入ってくる保護者に会釈をしている。



さくらを見つめる悠希。

さくらもその視線に気付く。

しばしの間、2人は見つめ合った。

悠希の心臓が、激しく脈打つ。


ピシッとしたスーツに身を包んださくらは、この前のさくらとは全く違って見える。

硬直している悠希に、さくらは笑顔を浮かべ頭を下げた。

あわてて、悠希もそれにならう。

その間も、悠希の心臓は高鳴り続けていた。




「パパ!」




少しだけ放心状態となっていた悠希を、現実へと引き戻す元気な声。

目を落とすと、そこには拓海が立っていた。


「パパ、来てくれてありがとー!」


笑顔を見せる拓海。

しかし、すぐにその表情を曇らせる。


「でも……お仕事は……大丈夫なの?」


その小さな瞳は、心配そうに悠希を見つめる。


悠希は、そんな拓海を安心させるように笑顔を浮かべた。

そして、しゃがみ込むと、いつものように拓海の頭をわしわしとなでた。


「ちゃんと、会社の人に休みもらってきたから大丈夫だよ」

「ホントに~?」

「ああ、本当だよ」


その言葉に、拓海はとびきりの笑顔を見せた。


「だから、た~もしっかり頑張れよ!」

「うん! 僕、ガンバル!」


元気に答える拓海。



その時、校舎中に授業開始を告げるチャイムが響き渡った。


「さあ、始まるぞ、た~」

「うん!」


拓海は、悠希に向かってVサインを突き出す。

悠希も、少し小さくVサインを返す。

満面の笑みを浮かべた拓海は、小走りに自分の席へと帰っていった。




「頑張れ、拓海……!」




走り去る小さな背中に、悠希はつぶやくように声をかけた。









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